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知る痛み、について解説。治療を受ける抵抗感について

知る痛み、について解説。治療を受ける抵抗感について #早稲田メンタルクリニック #精神科医 #益田裕介 / The Pain of Knowing
01:08 自己理解 02:17 他者理解 03:46 知ることは痛みをともなう 05:07 「知る」とは 09:12 治癒は「飛躍」 10:13 「発見」とは 14:08 サンタクロースはいない 15:08 神経症的な問題、コペルニクス的転回 本日は「知る痛み」というテーマでお話しします。 精神科の治療は「自己理解」と「他者理解」と「しなやかな思考」が大事だと僕は他の動画でもよく言っています。 自分のことを知ることで他人のこともわかるし病気のこともわかっていく、そして自分や他人のことがわかれば良い道筋を行動へ移していくことができます。 昔の中国の偉い人、孫子が言った「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」みたいな話ですが、精神科の臨床も一緒です。 自分のことを知る、相手のことを知るということがとても重要です。 ■自己理解 これも復習ですが、自分のことを理解するとはどういうことかというと、大事なポイントは5つあります。 1. 診断 自分はどういう病気なのか。 2. アセスメント 自分は心理学的にみてどういう性格なのか、白黒思考なのか意地っ張りなのか、負けず嫌いなのか、平凡恐怖、普通になってしまうのが怖いのか、自己愛が強いのか。 3. 家族 自分はどういう家族だったのか、生い立ちを深く理解する。 4. ライフステージ 自分は今何歳でどういう問題があるのか、今思春期だからこういう問題を抱えている、20代ならこういう悩みが多くて自分も同じように悩んでいる、30代なら妊活の問題が多い、50代になったら介護の問題や思春期の子どもを抱えている悩みがある、という風に人生は年齢ごとに課題があるので、それをちゃんと理解していること。 5. 会社や社会 社会とはどういうものなのか、社会の中で自分の会社や業界はどういうものなのかを理解していく。 そういう自己理解が重要です。 ■他者理解 他人に対しても同じような理解が重要です。 他者を理解するポイントとして大事なのは、他人と自分は違うということです。 溝があるということです。 親子は家族だから以心伝心だよね、と思っても実は親子も他人なので、意外とギャップがある、溝がある。 溝があるからすごく孤独を感じるのです。 そして質が違ったりします。 価値観が違うと、自分と他人は話し合っても相容れない部分がある、ということを理解しなければいけません。 どんなに話しても全然気が合わないということが起きます。 歩み寄ろうとしてもできない部分はどうしてもあります。 発達障害の人やカサンドラ症候群の人が悩んでいることも似ていますが、それだけではなく普通の人間関係でも同じようなことがあります。 話し合って理解し合えるほどの差であれば、それは多様性とは言わないのです。 我々人類は多様性がある。 多様性があるというのは、話し合っても理解し合えないほど多様であるということです。 そして、なぜ話し合っても理解できない同士が、同じところで社会として機能しているのだろうということがあります。 本当に不思議なのですが、どういうわけか上手く機能するというのが人間社会の不思議です。 こういうことを理解することです。 ■知ることは痛みをともなう 今聞いてギョッとしたかもしれませんが、これを知ることはとても苦しいのです。 自分はどんな人間なのか、相手はどんな人なのかを知るのは痛みを伴います。 なかなか受け入れ難いのです。 マスダは頭がそんなに良くない、意外とケチだ、集団生活が下手だ、運動神経が悪い、英語ができないなど、自分の嫌なところを言っちゃいましたけど、知りたくないですよね。 僕も今になってだんだん受け入れてきていることもあるけれど、全然受け入れられなかった時期もありました。 でも痛みを伴ってだんだん理解してきたという感じです。 精神科の治療は、患者さんにその痛みを押し付けるわけです。 君は障害があるんだということを突きつける、君は悲しい過去だったんだ、生い立ちだったんだ、君が受けてきた家族からのものというのは世間よりも不幸だったんだ、そういうことを突きつけないといけないのです。 それはとても痛みを伴うことであります。 ■「知る」とは 知るというのはどういうことなのか、ということをもう少し詳しくお話しします。 知るということを三つの段階に分けます。 1.明確化、直面化 まず、治療者は困り事を明確化していきます。 わかりやすくしていく。 あなたが考えているのはうつなんですね、うつでパワハラを受けていたんですね、と言ったりします。 これは薄々わかっていても改めて言われるとギョッとするし、すごく傷つきます。 あなたは夫婦の問題で悩んでいるかもしれないですが、旦那さんは実はもう別れたいと思ってたんですね。 患者さんが自分で言っているのです、診察室の中で「旦那は別れたいと思ってるんですよ、別れたいと言ってくるんです」と言った後に同じことをおうむ返ししてもすごく傷つきます。 そういうことを「明確化」と言ったりします。 本人が気付いていたこと、気付いてなかったことを改めて言うことを「直面化」と言ったりします。 「旦那って全然家に帰ってこないんですよね、不思議だと思いませんか」と言ったりするので、「旦那さんのシャツに口紅がついてたんでしょ?香水の匂いがしたんでしょ?」と言うと、「そうなんですけどたまたま会社でついちゃったそうです、たまたまぶつかっちゃったらしいですよ」と言ったりします。 「それってもしかしたら浮気の可能性はないの?」と言ったりすると、そんなの絶対に考えてるだろうと思っても本人だけは本当に考えておらず、そうすると涙がすーっと流れてきたりします。 それは無意識のものを意識下へ持ってきた、直面化と言ったりします。 知る痛みですね。 それは、「侵襲性」という言い方をするのですが、やっぱりこういうテーマを取り上げると傷つきます。 傷つくので、傷つかないように、本人が今扱えるようなテーマだけを話すように外来ではしています。 でもやっぱり傷つく。 傷つくときには、本人は恥をかかされたような感じ、自尊心の傷付き、悲しみ、怒り、否定したくなったり、契約、これをすれば良くなるんじゃないかという思いに囚われます。 2.混乱、整理 そして混乱します。 混乱するのですが、頭の中で段々と整理していきます。 やっぱりそうだったんだな、自分が今困っているのはパワハラの問題でうつになっちゃって、旦那に浮気されているんだな、ということがなかなか飲み込めないけれど整理されてくる。 3.理解、受け入れ、創造 整理された後に理解されたり受け入れたり、じゃあ次からどうしようか、旦那と仲直りするにはどうしたら良いのか、パワハラ問題については弁護士さんに相談したら良いのか、家族と相談してもう一回人生を新しくリセットしたほうが良いのかな、ということを考えたりします。 最初に知って、うやむやにしているのです。 本当はパワハラしていないのかもしれない、仕事が多いのはたまたまかもしれない、旦那が帰ってこないのはたまたまかもしれないと思うけれど、でもうつなのはどうしてだろうと思ってきて、やっぱりそうだったんだね、と受け入れていくというのが痛みであり治療であったりします。 前半はそんな感じです。 後半、理解するときにはどうしても「コペルニクス的発見」というものが必要となります。 今までの常識を壊して、新しい認知を手に入れたりしなければいけないことがあります。 科学哲学的には「パラダイム・シフト」と言ったりします。 それを受け入れるにはすごく手間がかかるし、頭の整理の時間がかかるし、言語化には時間がかかるし、驚いたり虚無感に襲われたり、別れというか寂しい気持ちになったりします。 そういうことが起きます。 ■治癒は「飛躍」 例えば哲学的な発見というものがないと、うつというものは本当の意味で良くなってはいきません。 発達障害にしても何にしてもそうなのですが、ただ自己理解や他者理解、しなやかな思考と言っても、今までの自分の延長線上に治療というものがあるのかと思ったら大間違いで、治癒というのは「飛躍」なんです。 今までの自分とは全く別の自分に変わっていくような変化を実感します。 ある時を境にグッと変わることもあれば、ゆっくり変わっていくこともあります。 半年くらいかけて、半年前とは全然違いますよね、ということもあれば、ある時を境にグッとわかってグッと変わることもあります。 そういうことは診察の中ですごく感じます。 ゆっくり変わっていく人もいれば、診察の中でグッと変わった人も見たことがあります。 治癒が起きる瞬間は本当に感じます。 概要欄続きはこちら(字数制限のため) https://wasedamental.com/youtubemovie/5650/#c01 --------- どうやったら自分を理解できるのか? 自己理解とは何か? https://youtu.be/ZW5XnVJrvL8 他人を理解することはできるのか? どうしても埋まらない溝をどう乗り越えるのか? 他者理解について解説 https://youtu.be/s4PRWD_ma-c --------- 『精神科医がこころの病気を解説するChとは?』  一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。                  早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介 『自己紹介』 益田裕介 防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。 趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。 2020年6月5日より断酒継続中。 【参考】 厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/ カプラン 臨床精神医学テキスト第3 https://www.medsi.co.jp/products/detail/3509 倫理規定について https://note.com/mentalyoutubers/n/nb130991f3fa4 【コメントについて】 ・コメントは承認制です ・コメントは益田が目を通していますが、手が回らず、質問にはお答えできません。ご理解よろしくお願いします。 ・(のちのち)自分や他人を傷つける可能性のあるものは承認されません ・他の人への返信も原則禁止です。共感的なもの、相手に役立つものは一部、許可しています。短い時間で判断しているので「どうしてこれがダメなの?」みたいなものもあると思いますが、それはこちらのミスであることも多いです。ご了承ください。 【取材対応。テレビや雑誌、Webメディアの人へ】 気軽にご相談して下さい。 toiawase@wasedamental.com 方針についてはこちら https://youtu.be/esgbyuhTvRo 【公認の切り抜き動画はこちら】 https://www.youtube.com/channel/UCu0kj2CJD9AXHSuTCWi3NWQ/videos 【動画制作の裏側はこちらから】 https://www.youtube.com/channel/UC9WXfmJQZVItKASe68--PJg
 
他者を通してであれ、あるいはテキストを通してであれ何かを「知る・理解する」という営みは必ず痛みが伴います。『諸相』を学ぶこともそうですし、スピリチュアリティを深めるのも痛みや傷つきは避けられません。
そんな「知る痛み」を精神科臨床医の視点から解説した動画です。『諸相』スタディは「知る痛み」をどうやれば受け入れやすくできるかを考えてもいます。